東京高等裁判所 昭和31年(ネ)847号 判決 1960年6月21日
控訴人 新生興業株式会社
被控訴人 島崎静馬 外二名
主文
一、原判決を取り消す。
二、被控訴人島崎静馬は別紙第二目録記載(イ)の建物を収去して、被控訴人島崎光江は同建物より退去して、夫々控訴人に対し別紙第一目録記載の土地のうち右建物の敷地約六坪を明け渡せ。
三、被控訴人中島三栄は控訴人に対し別紙第二目録記載(ロ)の建物を収去して別紙第一目録記載の土地のうち右建物の敷地約三坪を明け渡せ。
四、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
五、この判決は、控訴人が被控訴人島崎静馬及び同島崎光江に対して合せて金十万円に相当する担保を供するときは第二項につき、被控訴人中島三栄に対して金五万円に相当する担保を供するときは第三項につき、それぞれ仮に執行することができる。
事実
一、控訴人訴訟代理人は、主文第一ないし第四項通りの、かつ仮執行の宣言を附した判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、本件控訴を棄却する、との判決を求めた。
二、当事者双方の事実上並びに法律上の主張は、控訴人代理人が従前の主張に附加訂正をして、次のとおり陳述し、かつ被控訴人ら代理人において次のとおり答えたほか、原判決事実摘示と同一である。
(一) 控訴人の主張
1、本件土地の借地権の主体は、引揚者更生々活協同連盟(生協連)杉並支部であつたのであつて、その会員たる各個人が借地権者であつたのではない。被控訴人らは、生協連は単に対外的に便宜上そのような名称を用いたこともあるにすぎない程度のものたるに止まると言つて、あたかも本件借地権はその目的たる土地を占有使用する各個人に存すると主張するもののごとくであるが、しかりとすれば、右各個人がその賃借権を譲渡するに当つては賃貸人たる土地所有者の承諾を要するにかゝわらず、被控訴人を含めて本件土地占有使用者の交替があつた場合、未だかつてかゝる承諾を求めた事実は存在しない。さらに、右各個人が直接に賃貸人たる土地所有者に対して賃借人としての義務を負うものとすれば、賃借権の内容、すなわち賃料、期間、土地の範囲は各個人につき特定されていなければならないにもかゝわらず、本件各個人と土地所有者との間には、右契約を特定すべき何ものも存在しないのである。
2、生協連杉並支部は独立した人格なき社団ではあるが、社団法人たるその本部に対する支部の関係にあつて、その目的とするところにおいて少しも異なるところがないから、前者が後者の定款を準用するということも、異質の社団の定款を準用することとは異なつて可能であり、かつ合理的であると考えられる。本部定款の内容における事務所と杉並支部の事務所とが相違するということも、定款の準用を不能ならしめる程度の本質的なことでは毫もない。
生協連杉並支部は、本部の定款を準用し、本部とは独自に活動を継続してきたものであり、かゝる事実を考察すれば、右支部は本部の定款を準用することによつて独自の定款を具えたものと優に認定でき、かく認定することが、事実に即したものというべきである。
3、控訴人会社を設立しようという動きは、昭和二十八年春頃からあり、同年九月半ばには定款ができ上り、笹沼伝は該定款に発起人として署名をしているのである。もつとも、右定款が認証を受けたのは、同年十二月二十五日であるけれども、定款は商法第百六十六条第一項の規定する通り、これを作つて署名することによつて成立し、これが認証はその効力発生要件たるに止まる。そして、設立中の会社の機関たるものと認められるか否かも、定款の作成署名の日をもつて標準とすべきであり、その認証の日はこれに関係のないものと考うべきである。
控訴人会社の定款は、昭和二十八年十二月八日以前に作成され、笹沼はこれに署名しているのであるから、同人がした本件土地賃貸借契約は、設立中の会社の機関としての同人によつてなされたものであるとみるべきである。
4、また設立さるべき会社の営業準備に当るような行為であつても、設立の具体的事情によつては、設立された会社に承継されるべきもののあることは、これを認めなくてはならない。本件賃貸借についてみるのに、笹沼が設立さるべき会社の機関として地主と契約しているのが、昭和二十八年十二月八日、会社の設立は昭和二十九年一月十二日であり、その間わずか一カ月余りをへだてているのみである。そして、設立後、右契約の趣旨にしたがい、控訴人会社が契約を履践してきているものである。これら具体的事実に照して考えるときは、かゝる行為は、たとえ営業準備行為であつても、設立された会社に承継される、と考えることをもつて、妥当な法解釈であるとすべきである。
5、仮に控訴人の右主張が理由なしとするも、控訴人会社は、その設立後引つゞき、本件土地について、その所有者から、地代月額九千円(昭和三十年七月以来、一万二千円と改定)、毎月末持参払の定めで、期間の定めはなく、これを賃借して、今日に至つている。
したがつて、仮に笹沼伝のした前記契約による賃貸借関係が控訴人会社設立と同時にこれに取得されるに由ないものとしても、右会社設立と同時にこれと同内容の賃貸借の合意が成立し、控訴人会社はこれに基く権利義務を取得したものであり、かゝる契約が存在すればこそ、その後控訴人は賃料支払等、右賃貸借関係より生ずる義務の履行をし、地主もこれを受領してきたものというべきである。
されば、いずれにするも、控訴人会社は、設立以来、本件土地の賃借権を有するものである。
6、別紙目録(イ)の建物は被控訴人島崎静馬の所有であり、(ロ)の建物は被控訴人中島三栄の所有であるが、被控訴人島崎光江は(イ)の建物における営業名義人として右建物を占有するので、被控訴人島崎静馬に対しては、右(イ)の建物を収去して、同島崎光江に対しては、これより退去して、同中島三栄に対しては右(ロ)の建物を収去して、それぞれその敷地である土地の明渡を求める。
なお、右各建物及びこれが敷地たる土地は、昭和二十九年三月十八日に(イ)の建物につき被控訴人島崎静馬のため所有権保存登記をなされたことによつて、その表示を別紙第二目録及び請求の趣旨記載のとおり訂正する。
(二) 被控訴人らのこれに対する答弁
控訴人の右主張事実中、本件各建物の所有関係については争わず、また各建物等の表示の変更についても異議がないが、その他の主張は全部これを否認する。
三、双方の提出、援用した証拠及び相手方提出の書証の成立に関する陳述も、控訴人代理人が、甲第四号証の三、第二十二号証の一、二を提出し、当審における証人渡辺平作、青木茂正、橘有一の各証言及び控訴会社代表者笹沼伝の本人尋問の結果を援用し、乙第九号証の成立を認め、被控訴人ら代理人が、乙第九号証を提出し、当審証人渡辺吉江、北沢濶、星野徳一の各証言を援用し、甲第二十二号証の一、二の成立は知らない、と述べたほか、原判決記載と同一である。
理由
一、別紙第一目録記載の土地は、もと訴外中田幾太郎の所有であつたところ、同人は昭和二十七年八月九日に死亡したこと、同人には長男正義、次男幸一、三男林蔵及び長女てふの四人の子があつたが、三男林蔵は不在者であるため、東京家庭裁判所の審判により宇田川太一がその財産管理人に選任されたことについては、当事者間に争がなく、前記幾太郎の死亡に因つて、その妻婦美及び前記四人の子が共同して遺産相続をし、前記土地の所有権をも承継取得したことは、被控訴人らの明らかに争わないところである。
二、次に、引揚者更生々活協同連盟杉並支部が、代表者の定めのある法人に非ざる社団であること(但しそれが控訴人主張のように独立して財産権を取得する能力があつたという事実については争がある。)及び、右杉並支部の名をもつて、前記中田幾太郎の生前である昭和二十一年九月一日に、同人から、前記土地を、賃料一ケ月につき金百九十二円、毎月末日支払の約で、期間の定めなく賃借する旨の契約が締結され、その土地上に控訴人主張の店舗が建設されていることについては、当事者間に争がない。
被控訴人らは、右杉並支部は権利義務の主体たり得るものではないので、右契約によつて賃借権を取得することはできない、と主張するので、まずこの点について判断する。
成立に争のない甲第三号証、第四号証の二、第七号証、第十八号証、原審証人丸山泰男、真野一三、島積善、日向俊馬、当審証人青木茂正の各証言により成立を認め得る同第四号証の一、当審証人青木茂正の証言により成立を認め得る同号証の三、原審証人島積善、当審証人渡辺平作の各証言により成立を認め得る同第六号証の一、原審証人丸山泰男、当審証人渡辺平作、青木茂正の各証言により成立を認め得る同第十一号証、原審証人丸山泰男、当審証人星野徳一の各証言により成立を認め得る同第十三号証の一、二、三、原審証人島徳善、当審証人星野徳一の各証言により成立を認め得る同第十五号証の一、原審証人真野一三の証言により成立を認め得る同号証の二、原審証人真野一三、当審証人星野徳一の各証言により成立を認め得る同第十六号証、原審証人真野一三の証言により成立を認め得る同第十七号証の一、二、三に、原審証人丸山泰男、真野一三、島積善、日向俊馬、当審証人渡辺平作、青木茂正、橘有一の各証言及び当審証人星野徳一の証言の一部を併せ考えるときは、前記杉並支部は、昭和二十一年七月頃、その頃外地引揚者の相互協力により生活の維持安定並びに更生を図ることを目的として設立された社団法人引揚者更生生活協同聯盟支部の名で、特に引揚者の更生に必要な各種の経済的行為をする目的のもとに、杉並区内に居住する引揚者によつて結成されたものであるが、その結成は社団法人たる本部、引揚者更生生活協同聯盟と称するものの設立とほゞ時を同じくして行われ、かつ役員の首脳も本部の役員を兼ねていた関係もあつて、名は支部と称するものの、これを組織する会員や、その行なう事業もおおむね本部のそれらのものとは別のものであつて、独自の存在と活動とをなしていたものであること、すなわち右杉並支部の主な事業は後記認定の生協連更生マーケツトの設置と運営とであり、右マーケツトに店舗を有するものは本部と関係なく、杉並支部の会員であつたこと(したがつて、右店舗所有者の異動については支部の承認が必要であつた。)、もつとも右マーケツトの運営は当初しばらくのうちを除いて直接支部の名をもつてせず、その管理する生協連更生マーケツト運営会の機構を通じてこれを行なつてきたが、右運営会は前記杉並支部の機関であり、これと別個の組織ではなかつたこと、なお杉並支部は右マーケツトの維持のほか、バザーの開催、物資の配給、日用品交換斡旋等の事業をも行なつており、その会員、役員、内部における意思決定、外部に対する代表、その他の事務執行等に関する定めとしては、すべて社団法人である前記本部の定款を準用して、その規約としたこと、すなわち、右支部は事務所を東京都杉並区天沼一丁目百四十二番地におき、「海外ヨリ終戦後引揚タル一般人ニシテ会費一口二十円以上五十口マデヲ一時ニ払込ミタル者」(正会員)と「正会員ニ準ズル者ニシテ本連盟ノ趣旨並ニ目的ニ賛成シ正会員ト同率ノ会費ヲ払込ミタル者」(特別会員)とをもつて組織し、その意思決定は総会の決議によつてすることとし、代表者としては総会が過半数の議決をもつて選任する支部長一名を置き、その他の役員として副支部長、理事等の定めがあつたことを認めることができ、当審証人渡辺吉江、星野徳一の各証言及び原審における被控訴人島崎静馬の本人尋問の結果中、これと牴触する部分は、他の証拠と対比して信用することができず、他にこれをくつがえすべき証拠がない。
右認定事実に、さらに後記認定にかゝる前記マーケツトの敷地たる本件土地の当時の所有者中田幾太郎は右土地を各店舗所有者個人に賃貸することを欲しなかつたため、前記支部が団体としてこれを賃借したという事情をも併せ考えるときは、杉並支部は、社団法人たるその本部とは別に、法人格こそ有しないが、社会生活上独立せる組織体として、その名で法律行為をし、かつ権利を取得し、義務を負担することができたものである、と認めるのが相当である。そして、右支部をかような社団であると認めるにつき、その規約として他の団体である前記社団法人の定款を準用するということも、一面右団体とはその目的を共通にするいわゆる本部と称する社団法人と人格なき社団としての支部の名称を使用したものの関係にあつたことをも考えれば、必ずしも右認定の妨げとなるものではなく、またその準用される右定款の規定内容と、社団の名称、事務所の所在、代表者の名称等につき同じでないということも、もとより他の社団の定款を準用するのであるから、当該社団の実情に応じてしかるべきことであると言わなくてはならない。被控訴人らは、また、右定款準用については会員の総意による決議を経ていないから、杉並支部の規約たる効力を有しない、と主張するが、人格なき社団の規約の成立について、株式会社や社団法人の定款のそれのように厳格な形式の遵守を要求されていると解すべき何らの根拠がないので、被控訴人らの右主張も亦採用できない。その他被控訴人らが、右杉並支部は権利義務の主体たり得る能力がないとして主張する諸点は、前認定事実に徴して、採用することができない。
三、そこで、進んで本件土地の賃貸借関係について考える。
前示甲第七号証、第十三号証の一、二、三、成立につき争のない同第二号証の一、二、三、第五号証、第十号証の一、原審証人中田正義、宇田川太一の各証言及び当審における控訴会社代表者笹沼伝の供述により成立を認め得る同第一号証の一、二、右代表者の供述により成立を認め得る同号証の三、原審証人中田正義、当審証人青木茂正、橘有一の各証言により成立を認め得る同第十号証の二、三に、原審証人丸山泰男、真野一三、島積善、中田正義、当審証人渡辺平作、青木茂正、橘有一の各証言、当審における控訴会社代表者笹沼伝の供述及び当審証人星野徳一の証言の一部を併せ考えれば、前認定の生協連杉並支部は昭和二十一年九月一日当時の杉並区役所当局者のあつせんで引揚者更生のための市場建物敷地として本件土地百九十一坪余を当時の所有者中田幾太郎から借り受けることになつたが、所有者中田はこれを各店舗所有者個人に賃貸することを欲しなかつたので、右杉並支部が同人から前記のような約旨でこれを借り、自ら賃借人となつたこと、杉並支部はかく賃借した右土地上に南北三列の店舗を建設し、会員にその店舗の各小間を分与して、その会員たる限りその各小間敷地の使用を容認し、会員より徴集した会費をもつて地代を支払つてきたこと(もつとも右市場建設よりしばらくして支部はその下部機構として生協連更生マーケツト運営会なるものを設け、右運営会をしてこれらの事務にあたらせてきたが、運営会そのものは支部の機関であつて、支部と別物ではなかつたこと、前に認定したとおりである。)、そして各店舗所有者は当然支部の会員としてその統制に服し、したがつてその異動については支部の承認を必要としたこと、しかるにその後土地所有者の希望により支部は株式会社に改組して、会社として本件土地を賃借することになり、昭和二十九年一月十二日に土地家屋の賃貸借並びにその供給管理を目的として控訴会社が設立され(右設立の目的及び年月日の点については、当事者間に争がない。)、控訴会社において杉並支部の権利義務一切を継承し、したがつて、中田幾太郎の相続人らに対する本件土地の賃借権も会社設立と同時にこれを譲り受け、右相続人の一人である中田正義は貸主の代表として右譲渡につき承諾を与えたこと(前記甲第一号証の一によれば、右承諾の書面は会社設立前の昭和二十八年十二月八日附をもつて作成せられているが、賃借権譲渡の承諾は譲渡前に予め与えられることを妨げられないので、控訴会社は有効に本件土地賃借権を譲り受け取得したものというべきである。また、前記甲第一号証の二によれば、本件土地については、これも控訴会社設立前である昭和二十八年十二月八日に笹沼伝がその代表取締役の肩書のもとに地主からこれを賃借する旨の契約書を作成したことが認められるところ、当審における控訴会社代表者の供述及びそれにより成立を認め得る甲第一号証の三によれば、控訴会社の定款認証の日は同月二十五日であることが明らかであるので、笹沼が結んだ右契約の控訴会社に対する効果については、疑なしとしない。しかし、控訴会社がその設立以来、従来杉並支部が本件土地の賃借人として地主に対し行使しかつ履行しきたつた一切の権利義務を、事実の上で承継して行使しかつ履行してきていることは、本件弁論の全趣旨に徴し明白であるから、少なくとも控訴会社はその設立と同時に杉並支部の本件土地賃借権を譲り受けたものと認定するのが相当である。)を認めることができる。
当審証人渡辺吉江の証言及び原審における被告(被控訴人)島崎静馬本人尋問の結果中、各店舗所有者がそれぞれ個人としてその敷地の借地権を有した旨の、また当審証人星野徳一の証言中、本件土地は当時の杉並支部代表者島積善が個人としてこれを賃借した旨の各供述部分は前掲他の証拠と照し合せてたやすく信用しがたく、その他前認定をくつがえすに足る証拠がない。
被控訴人らは、亦、杉並支部の右賃借権譲渡については、厳格な手続を必要とするのに、会員中被控訴人島崎静馬、同中島三栄を除外して右譲渡の意思が決定されたから、右譲渡は無効である、と主張するが、右譲渡当時右被控訴人らはすでに杉並支部を離脱し、その会員たる資格を失つていたことは、後に認定するとおりであるばかりでなく、前記甲第四号証の一によつても、右譲渡につき総会の通常の議決による以上の手続を必要とする趣旨の根拠の認められるものがないところ、前認定の譲渡については支部としてこれに必要とする手続に欠けることのなかつたことは、弁論の全趣旨に徴して明らかである。
これを要するに、本件土地の賃借権は当初生協連杉並支部がこれを有していたが、控訴会社がこれを譲り受け、賃貸人の承諾をも得たので、現在の借地権者は控訴会社であるといわなくてはならない。
四、右認定の控訴会社の借地上には、現に被控訴人島崎静馬が別紙第二目録(イ)の建物を、同中島三栄が同(ロ)の建物をそれぞれ所有してその各敷地を占有していることについては、当事者間に争がない。(右各建物の表示が昭和二十九年三月十八日被控訴人島崎静馬の右(イ)の建物の所有権登記の結果それぞれ別紙第二目録記載のとおり変更になつたことも、被控訴人らの争わないところである。)
ところで、右両被控訴人はいずれも前記杉並支部の会員として右店舗敷地の使用権原を有していたことは、前認定事実に徴し明らかであるところ、成立に争のない甲第八号証、第十号証の一、原審証人丸山泰男、森屋錠之助、真野一三、当審証人渡辺平作、青木茂正、橘有一の各証言、当審における控訴会社代表者本人尋問の結果及び原審における被告(被控訴人)島崎静馬本人尋問の結果の一部に、原審における検証の結果をも参酌して考えるときは、前記杉並支部は時勢の推移にかんがみ将来の発展を期するため、昭和二十五年三月三十一日総会の決議により、前記マーケツトの中間列の建物を撤去し、通路を拡張して両側の店舗でこれを使用することを決定したところ、前記被控訴人両名の所有する店舗は右中間列に存在し、右被控訴人らも当初は右撤去に同意し、被控訴人島崎静馬のごときは、撤去家屋の評価委員長にまで選ばれたのであるが(右事実については当事者間に争がない。)、残置店舗所有者らとの右評価に関する見解の相違から、被控訴人らは右撤去に関する協力を拒むようになり、ついに昭和二十八年三月二十日杉並支部の当時の代表者たる丸山泰男に対して昭和二十七年九月分以降の地代分担金は直接地主に対して支払うべく、支部としての支払は爾後関係なき旨通告したことを認めることができるから、これをもつて被控訴人らの支部脱退の意思を表明したものと解すべく、而うして本件において右支部の後身たる控訴会社が被控訴人らの会員たる資格を争つている態度に徴すれば、支部において暗默に被控訴人らの右脱退を承認したことは明らかであると言い得るから、被控訴人らはこれをもつて杉並支部を脱退したものと認定するのが相当であり、同時にその会員たる資格を喪失し、会員たる資格にもとづき有する本件土地の使用権原も亦これを失つたものと解さなくてはならない。而うして他に被控訴人らが右土地を占有使用すべき権原のあることを認むべき何らの証左がない。
五、被控訴人島崎静馬及び同中島三栄がそれぞれ本件土地の控訴人主張の部分を占有していること、前記のとおりであり、また別紙第二目録(イ)の建物における営業が被控訴人島崎光江の名義でなされていることは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができるから、同被控訴人も亦右店舗を使用することによつて、その敷地を占有しているものといわなくてはならない。
しかるに、右土地は現在控訴会社がその所有者である中田正義ほか四名から賃借していること、前認定のとおりであり、右所有者らにおいて右賃貸地に対する被控訴人らの不法占有を排除するため、何らかの手段に出ている事実が認められないから、右所有者らに代位して被控訴人島崎静馬及び同中島三栄に対しては、その各自の所有する前記各建物を収去し、また被控訴人島崎光江に対してはその使用する前記建物から退去して、それぞれその占有する右各建物敷地を明け渡すべきことを求める控訴人の本訴請求はその理由があるというべきである。
被控訴人らは、右土地所有者らの土地所有権取得については、その登記を経ていないので、被控訴人らに対抗することができない、と主張するが、被控訴人らは右土地の不法占拠者であること前認定のとおりであるので、登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者ということができないから、被控訴人らの右主張もその理由がない。
六、してみれば、爾余の争点につき判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は理由のあること明らかであつて、これを排斥した原判決は失当であるといわなくてはならないから、民事訴訟法第三百八十六条により原判決を取り消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき同法第八十九条、第九十三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 内田護文 多田貞治 入山実)
第一目録、
東京都杉並区天沼一丁目百四十二番地
一、宅地 百九十一坪四合八勺
第二目録
(イ)東京都杉並区天沼一丁目百四十二番地五
一、木造亜鉛葺二階建店舗兼居宅 一棟
建坪 九坪
二階 三坪
の内南側
家屋番号天沼一丁目一四二番五
一、木造亜鉛葺平家建店舗兼住家
建坪 六坪
(ロ)東京都杉並区天沼一丁目百四十二番地五
一、木造亜鉛葺二階建店舗兼居宅 一棟
建坪 九坪
二階 三坪
の内北側
一、木造亜鉛葺二階建店舗兼居宅
建坪 三坪
二階 三坪